先天性副腎過形成症とは、副腎から分泌される糖質コルチコイドと呼ばれるホルモンがうまく作られずに産生障害を起こす病気の総称です。生まれつき起こる遺伝性の病気で、日本での発症頻度は約18,000〜19,000人に1人の割合で起こります。日本では指定難病の対象です。
先天性副腎過形成症の種類は次の通りです。
● 21-水酸化酵素欠損症
● 11β-水酸化酵素欠損症
● 先天性リポイド副腎過形成症
● P450オキシドリダクターゼ欠損症
● 17α-水酸化酵素欠損症
● 3β-水酸化ステロイド脱水素酵素欠損症
このうち、日本人の90%以上でみられるのが「21-水酸化酵素欠損症」です。糖質コルチコイドを十分に作ることができないと、副腎が腫れてさまざまな症状があらわれます。日本では新生児のマススクリーニングの対象になっており、子供の頃の発見が重要になる病気です。子供(新生児)の場合は、母乳が飲めなくなったり嘔吐したりしてしまうため、速やかな処置が必要です。
副腎とは、腎臓の上の方に左右に1つずつあるとても小さな臓器です。外側と内側で役割が異なり、外側の副腎皮質では「糖質コルチコイド」「鉱質コルチコイド」「副腎アンドロゲン」を、内側では「カテコラミン」と呼ばれるホルモンを産生しています。
これらのホルモンは体の機能維持に必要不可欠で、血糖値を維持したりストレスから守る働きをしたり、体内に塩分や水分を蓄える働きをしています。そのため、この副腎皮質のホルモンがうまく作られないと体のさまざまな機能に影響を及ぼしてしまうのです。
先天性副腎過形成症の原因は、常染色体劣性遺伝によるものです。常染色体劣性遺伝とは、父親と母親が同じ特性の遺伝子を持っており、子供にあらわれる遺伝形式のことをいいます。
病気の原因になる遺伝子が常染色体の上にあり、両親それぞれの遺伝子の同じ部分に異変があると25%の確率で発病します。
先天性副腎過形成症のうち、日本人の90%以上にみられる「21-水酸化酵素欠損症」は、男女ともに小児期、思春期、成人期あるいは生涯を通してさまざまな症状が現れます。それぞれを解説します。
糖質コルチコイドが十分に作られないため、慢性的に糖質コルチコイドが不足して副腎不全になります。副腎不全になると倦怠感や低血圧、低血糖などの症状が起こるほか、糖質コルチコイドが不足すると、血圧が維持できずに命の危険が伴うためすぐに治療が必要です。
子供のころから過剰な男性ホルモンにさらされていることで、男女ともに低身長の症状がみられます。
男性ホルモンや女性ホルモンは子供の成長のために必要ですが、成長期よりも早い幼少期から二次性徴が促されるため、通常よりも骨が早く成熟しやすく骨が完成して背が伸びなくなるでしょう。
21-水酸化酵素欠損症は男性ホルモンが過剰に分泌されるため、女性には多くの影響を及ぼします。
胎児および新生児期では男性ホルモンの作用で外性器が男性化して見えるため、見た目ではすぐに性別の判断ができません。また小児期から成人期以降にも、男性ホルモンの影響を受けて多毛、低い声、皮膚や髪の毛の質感が男性化するなどの症状がみられます。これらの症状は元に戻りにくい場合もあるため注意しましょう。
21-水酸化酵素欠損症の女性は男性ホルモンの影響を受けていますが、生殖機能は正常に保たれています。そのため、病気のコントロールができていれば妊娠や出産は可能です。ただし、妊娠のしやすさは一般の女性に比べると少し低いとの報告があります。
成人以降の男性も病気のコントロールができていない場合は、精子形成が障害されるため、妊娠しにくくなります。
先天性副腎過形成症は新生児マススクリーニングの対象です。新生児マススクリーニングは、赤ちゃんの先天性の代謝異常などの病気をみつけるための検査です。
● 血液検査:血液中の電解質やホルモン値などを調べる
● 尿検査:体内のステロイドホルモンの成分を調べる
● 超音波検査:副腎の大きさを測定して腫大の有無を調べる
これらの検査でも診断がつかないときは、副腎からのホルモン分泌を促す「負荷試験」や、遺伝子検査を行う場合もあります。
先天性副腎過形成症では次の治療を行います。
不足している糖質コルチコイドや鉱質コルチコイドのホルモンを補充するために内服薬を使用します。糖質コルチコイドの補充には「ヒドロコルチゾン」、鉱質コルチコイドの補充には「フルドロコルチゾン」が主に使用されています。
21-水酸化酵素欠損症の女性は、男性ホルモンの影響で外性器が男性化しているため外科的治療を行います。多くの場合は、1〜3歳の子供の間に手術をして形を修正します。
参考文献
http://jspe.umin.jp/public/fukujin.html
https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=82
https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/adrenal_dysfunction/#:~:text=%E5%89%AF%E8%85%8E%E6%A9%9F%E8%83%BD%E4%B8%8D%E5%85%A8%E3%81%AF%E5%85%A8%E8%BA%AB,%E6%A9%9F%E8%83%BD%E4%B8%8D%E5%85%A8%E3%82%92%E7%96%91%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20240130_GL044.pdf
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/19-%E5%B0%8F%E5%85%90%E7%A7%91/%E5%B0%8F%E5%85%90%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%86%85%E5%88%86%E6%B3%8C%E7%96%BE%E6%82%A3/%E5%85%88%E5%A4%A9%E6%80%A7%E5%89%AF%E8%85%8E%E9%81%8E%E5%BD%A2%E6%88%90%E7%97%87%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81
https://nagoya-central-hospital.com/lysosome/heredity.html#:~:text=%E6%80%A7%EF%BC%88%E5%84%AA%E6%80%A7%EF%BC%89%E9%81%BA%E4%BC%9D-,%E5%B8%B8%E6%9F%93%E8%89%B2%E4%BD%93%E6%BD%9C%E6%80%A7%EF%BC%88%E5%8A%A3%E6%80%A7%EF%BC%89%E9%81%BA%E4%BC%9D%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F,%E5%8A%A3%E6%80%A7%EF%BC%89%E9%81%BA%E4%BC%9D%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82